和久峻三サスペンス　滝警部補の事件日誌　飛騨高山　殺意の追憶 日剧

　ある夜、飛騨高山の老舗造り酒屋『沢宗酒造』の経理部長・田口信吉が、ビルの屋上から転落死した。現場検証では自殺と思われたが、飛騨高山署刑事課の警部補・滝耕平は、腑に落ちないものを感じていた。さらに、田口の妻・国子が遺体を見た瞬間に口にした「あなたにとっｓて、私と過ごした20年は何だったんですか？」という言葉が、滝の脳裏に残った。それは何を意味しているのか？

　田口の勤めていた沢宗酒造は、銘酒『沢の宗』を抱え、創業200年の歴史を誇る老舗の造り酒屋。しかし、先代社長の死後、跡を継いで七代目社長となった沢村宗一は経営能力に欠け、年商は３分の１にまで落ち込んでいた。その沢宗酒造を陰で支えてきたのが勤続46年になる田口で、周囲の評判も上々だった。しかし、田口の机の中からは「会社の金、5000万円を使い込み迷惑をかけた」という田口の直筆の手紙が見つかる。しかも、携帯電話の記録などから競馬のノミ行為をしていたことが判明。やはり横領を苦に自殺なのか…？しかし19歳になる田口の娘・薫が贈ったという手帳が遺留品から消え、さらに自宅からは、その手帳を破いて書かれた菅原道真の和歌が残されていた。これは田口のダイイング・メッセージなのだろうか？

　滝は事情聴取のために沢宗酒造を訪れ、宗一の腹違いの弟・光二と黒坂酒造の社長・黒坂が密談しているのを目にする。光二は沢村家の後妻・世津子の子供だった。宗一と妻の明代との間に子供はなく、いずれ光二が沢宗酒造を継ぐことになる。しかし、黒坂は光二を黒坂酒造に引き抜こうと企み、執拗に光二を誘っていた。

　捜査が進むうち、事件当夜の関係者のアリバイが判明する。田口の死亡推定時刻は、午後８時から10時30分の間。その日、宗一と黒坂は組合の会合で奥飛騨の平湯温泉へ行っており、その事実は愛人ルミの証言でも確認された。明代は母親の看護のために実家へ戻っており、光二は職人たちと飲んでいた。そして、世津子は一人で家にいたという。

　その後、黒坂の証言から、田口名義のノミ屋の窓口は、実は宗一がギャンブルに使用していたものだったことが明らかになる。さらに滝は20年前、沢宗酒造が危機を迎えた時、田口が危機を救ったという事実を聞き出す。社長を含めて、沢宗は田口に恩義があるのだという。ますます田口の自殺に疑問を持つ滝。その20年前の出来事が、事件の鍵を握っているのだろうか？

　その後、宗一のアリバイ証言に偽りがあったことが判明する。事件当夜の10時頃、平湯から高山まで宗一らしき人物を乗せたというタクシーが発見されたのだ。さらに愛人のルミが、宗一から嘘の証言をするように言われたとも告白する。宗一は10時にホテルを出て、12時30分にはホテルに戻っていた。滝の追及に、とうとう宗一は田口と話し合いをするために戻ってきたことを認める。しかし、田口とは会えずに平湯へ戻ったという。それは義母の世津子によって確認された。そんな中、警察の尾行をまいて密かに会い、何事か話し合う国子と宗一の姿があった…。滝が問いかける20年前の出来事について、頑なに口を閉ざす国子。田口と国子が結婚した頃とちょうど重なる20年前、老舗の造り酒屋で何があったのか？欲と錯綜する人間関係が招いた事件の真相とは!?