#1 - 2022-7-16 01:25
Nayaflask
「君は、ここにいる。私も、ここにいる」


「もう、誰にも必要がないもの。消えても、誰も気にしないもの」


「光が無い。から、黒」
「暗闇が、ピッタリ」
「私に、光はあたらない」


「だって、どーてもいい人に見てもらえなくても、こわくない」


「ムシなんて、されたくないの!話しかけてもらいたいの!」


「…ほら、また良い思い出ができたよ」
「もう、悪い事なんて上書きされちゃった!」
「たから、もっともっと遊んで、もっと上書きしていこうよ」


「君は私を、見るって言った。
 ……それなら、私は君を、守る。」
「いなくならないで、って君は言った。
 ……だから、いなくならない」
「もし何かがあって離れても、何度でも、会いにいく。
 ……今、そう、決めた。そう、誓うよ」


「……ね、ぇ。何度だって……私はここに、くるから」
「クロは絶対に、君のところに、存在するから」


「……私と一緒に、死んでほしい」
「災厄を待ち、世界を崩壊させ、自殺してほしい」
「私はこのまま、死ぬ。
 そして君も……その、自殺、を、してもらう」
「死んでほしいと言う人間が優しいなんて、君は変わっているな」
「君は、私だ。だから、本当はわかっているんだろう?」
「たとえ間違っていても……。いや。
 間違っているからこそ、私はその道を選ぶよ」
「なぜなら、私がそうしたいんだ」
「私は豹馬君と一緒に間違える。
 ……豹馬くんだけを間違えるさせたりしないさ」


「あのね。なんだか……よく覚えていないけどね。
 私は小さい頃、何かに苦しめられていた気がするの」
「誰にも見てもらえなくて悲しかった。辛かった」
「そしてーーそこを君に、救い出された。見てもらった」
「そんな自分を、
 屋台の水槽から掬われる金魚に重ねあわせた」
「……でもね。そこには続きがあるってコトも、
 その時に気が付いたの」
「屋台の水槽から掬われた金魚は、
 そのあと、小さな袋に移し替えられていた」
「……それも、私なのかなって、思った」
「私は君の手で、君の家という場所にうつされた」
「そうして私は金魚みたいに、
 小さな世界の中で愛でてもらえた。
 嬉しかった。とっても、幸せだと思った」
「でも、そのかわり、君は……」
「金魚しか、愛でなくなっちゃったね」


「一歩を踏み出さないと、いけないの。
 君も私も、光の中に入らないとだめなの」
「そうじゃないと、『豹馬くん』と『くろ』は、
 どの世界でもずっと出会った時のまま。
 ……子供のまま、だよ」
「大人にならなくちゃ、だめだよ」


(俺は、そんなお前だよ。豹馬)
(……最悪な人生をおくった、お前だ)


「そのまま死んでしまったら、君は君の言う、
 『最低で最悪な人間』のまま終わってしまうけど……それでいいの?」
「他の誰が君を罵っても。君自身が君を罵っても。
 ……その分だけ、私が君を褒めるよ」


死にたいと言っても、
全部、「消えたい」と「逃げたい」を言い換えただけだった。


いつもの、『とうふキナコみそ納豆豆乳ソフトクリーム』だよ


こう言うと失礼かもしれないけれど……
この人、なんだかちょっとヘンに見える。


「ん。死んだよ。
 私の大好きな『豹馬君』がいなくなっちゃったからね。
 追いかけてきたの」
「永遠の孤独くらい、耐えられるはずだよね?」


「今だけ。今は、ほんの少し疲れているだけだから仕方ない。たまたまだよね。
 ……そう。そうなんだよね!ねぇ!?」
「『豹馬君』がいなくなるなんて、ありえないよ」
「そんな、たった1人の人なんだから……
 いなくなったりしないよね?」


(たしかに、『クロ』は可愛いさ。
 どの世界の、どんな彼女も、可愛くて、素敵だ)
(だが……ッ。
 この世界のクロの可愛さは、この世界だけのものだ)
(たとえそれが、無数に存在するクロの中からみれば、
 些細な、ひとかけらだとしても……)
(そこにいるのはかけがえのない、
 たった1人のクロだ)


きっと、最初はそうだった。
俺は結局……『クロ』がほしかったんだ。
自分を見て、話してくれる『だれか』がほしかった。
世界に向けていたはずの恨みもすべて、
自分自身へのものだった。


「私は君を許さない。永遠に君を憎んで、恨み続ける」
「けれど……同時に、君は、私を恨んでくれていいんだよ」
「君と、出会わなかった」
「私はあのシーソーで、
 ただ、誰かが話しかけてくれるのを待っていた。
 願うだけだった」
「でも、それじゃダメだった。
 ……私も、君を探せばよかった」
「私から、君にはなしかけて……
 率先して、君のお手伝いをすればよかった」
「そうすれば、君は苦しまなかった。
 君は絶望しなかった。君は、生きていられた」
「だから、ごめんね」
「ごめんね。
 ……君を見つけてあげられなくて、ごめんね」


「君はひどいよ。意気地なしなところもある。
 臆病で、卑屈で、ずるい。嘘吐きで、不誠実」
「君は私の神を殺した。
 ……けれど同時に、神が人間だということを教えた」
「そしてそんな君でも、1つの世界の私を救ってくれた。
 死なせたくないと思ってくれた」
「だから、やっぱり君は君だよ」
「どんな最低な人間だとしても、
 君は私が大好きな人だから」


「こんな世界だから、成長しないよ。
 ……だったら、子供でもいいでしょ?」


いっしょに、恨もう。
そうしてこのまま永遠に、罪を背負っていこう。
ーーしょせん、ここは、四角い箱の底の部分。
誰にも見てもらいない。
光が当たらない、真っ暗な場所だ。
けれど、
(君は本当に、そこにいるんだな)
この、何もない世界の中で、たった1人。



「……そう。君なら必ず、声をかけてくれるよね」