2024-1-25 18:49 /
『ねぇ、春希くん』
『わたしは、やっぱりあなたを照らす光になれなかった。あなたに当たるべき光を遮る存在でしかない』
『だから…離れていきます』
『さよなら、春希くん。ずいぶん遅くなっちゃったけど、わたし、あなたを…ふってあげる』
『だから、頑張って立ち直ってね。そして、素敵な恋をしてね…』
麻理 「それが冬馬かずさ?」
「どんなコだったの?彼女って」
春希 「ほんと厳しい奴でした。厳しさだけなら今の麻理さんに匹敵するくらい」
麻理 「そこで私を引き合いに出さなくていいから」
春希 「そういえば、ちょっと似てるかな?」
「...そうでもないか。あいつの場合、音楽以外は欠陥品もいいとこだったし」
麻理 「私だって仕事以外は欠陥だらけよ」
春希 「でかい家に一人暮らしで散らかし放題」
麻理 「住んでるところは小さなマンションだけど、散らかし放題は同じかな。帰っても寝るだけだから洗濯物が溜まっちゃって...」
春希 「食事はコンビニかファーストフードばかり」
麻理 「最近はちょっと贅沢に超絶バーガー頼むこともあるけど、あれ、出てくるのに時間かかるのが難点ね」
春希 「...やっぱ似てるじゃないですか」
麻理 「かもしれないわね?」
佐和子「それに、顔とか性格とか立場とか年齢とか、そんなわかりきった理屈じゃないんだって男と女なんて。...そういう経験、ない?」
それでも、最後のその一言だけは、俺の反論しようとする気力を、根こそぎ折ってしまうのに十分な説得力があった。
だって...
俺の周りには、昔から趣味の悪いひとたちがいた。
『ただ、もう頑張りたくないだけ。楽に、なりたいだけなの』
楽に、なりたいだけ、か。
誰なんだろうな。
今まで雪菜に楽をさせなかったのは。
ずっと、苦しめ続けていた重罪人は。
これが、普通の記事ならよかった。
芸能界のゴシップでも、
恐怖の大予言特集でも、
下手をすれば御宿の風俗店情報でさえも。
きっと武也は指を指して笑い、
依緒は散々笑った後、ぽんと肩を叩くだろう。
そして雪菜は…
そんな低俗な雑誌でも、自分のお金でもう一冊買い、
ぎゅっと胸に抱きかかえてくれる…かもしれない。
本当に、格好いいひとだ。
俺が女性にこんな感情を抱くなんて、
麻理さんで二人目だ。
一人目の、クールで鋭い格好良さとも違う。
なんていうか、熱血というか、力技というか、
そういう無駄な熱さを伴う、一昔前の格好良さというか。
…なんて言うと、
ちっとも女性を誉めているような気にならないのは、
俺の気のせいだろうか?
俺は今、間違いなく無理して明るく振舞ってる。
けれど、麻理さんと二人きりだと、
ほんの少しだけ、その無理をする度合いが減ってくれる。
ほんの少しだけ、本当に明るくなれる。
99%の演技の中に、
1%の素の自分を織り交ぜることができるから。
もうやめよう。
雪菜を裏切ったまま、
"冬馬"という姓を引きずるのは。
春希 「また、俺を放り出すんですか?俺を、見捨てるんですか?」
「俺が、こんなに苦しかったの…こんなに辛かったの…麻理さんのせいでもあるのに…」
本当に、不謹慎だけど…
相変わらず、拗ねると抜群に可愛いな、この人は。
似てる、よな、やっぱり…
ごめんなさい、麻理さん…
俺は今、自分を含めた世界全部に嘘をついてます。
自分があなたを求めた本当の理由は、
傷を癒して、なくすためじゃなかったんです。
とても痛いのに、傷を消してしまうのが怖いから、
ただ、痛みだけを誤魔化したかったんです。
俺が処方してもらったのは、
治療薬ではなく、ただの麻酔薬だったんです。
なのに、その麻酔が、こんなに心地良いなんて…
このままじゃ、依存症になってしまいます、俺。
もう、戻れなくなってしまいます…
雪菜 「変わってないでしょ?」
「だって、わたしが変わってないんだもん」
「三年前から、止まったままなんだもん」
雪菜 「三年前のあの日、ここに家族なんかいなかった。春希くんを待ってたのは、わたし一人だった」
「家族はみんな北海道に旅行に行っちゃってた。友達も、誰も呼んでなかった。…わたし一人で、あなたをずっと待ってた」
雪菜 「逃げてたって…春希くんの話を聞くのが怖くてずっと逃げてたって、わかってるくせに」
「今日なら、春希くんは『大事な話』ができない。きっと、その優しさで飲み込んでしまう。…そんな酷い計算があったんだよ」
「だからわたし、今日、春希くんに会うことにした。一年に一度しか通用しない手ってわかってたけど、今のわたしには、こうするしかなかったの」
「あはは…これからは年一回しか会えないかもね。次は来年の今日まで…織姫と彦星みたい」
「一年間、ずっと彦星から逃げ続ける織姫…ふふ、みっともないね。心の底からみじめだね…っ」
『春希くん…笑ってたもんね。彼女の話をしてるときも』
『わたしが笑えなくなってしまってからも、ずっと、嬉しそうだったもんね』
『でもそれは、わたしに笑いかけてたんじゃなかった。今ここにいない、彼女に話しかけてたんだよね』
『だからわかっちゃった…今の春希くんの側にいるべきなのは、この人なんだって』
『そんな素敵な人なら、春希くんを笑わせてくれる。幸せにしてくれるって、わかっちゃった…』
『春希くんを、元の春希くんに戻してくれる。三年前の、明るくて、正しくて、頼もしい春希くんに。…わたしには絶対にできないことを、してくれる』
『だったらわたしは、わたしは…もう、春希くんから、卒業するしかないって、わかっちゃった…』
『ねぇ、春希くん』
『わたしは、やっぱりあなたを照らす光になれなかった。あなたに当たるべき光を遮る存在でしかない』
『だから…離れていきます』
『さよなら、春希くん。ずいぶん遅くなっちゃったけど、わたし、あなたを…ふってあげる』
『だから、頑張って立ち直ってね。そして、素敵な恋をしてね…』
『わたしは、やっぱりあなたを照らす光になれなかった。あなたに当たるべき光を遮る存在でしかない』
『だから…離れていきます』
『さよなら、春希くん。ずいぶん遅くなっちゃったけど、わたし、あなたを…ふってあげる』
『だから、頑張って立ち直ってね。そして、素敵な恋をしてね…』
麻理 「それが冬馬かずさ?」
「どんなコだったの?彼女って」
春希 「ほんと厳しい奴でした。厳しさだけなら今の麻理さんに匹敵するくらい」
麻理 「そこで私を引き合いに出さなくていいから」
春希 「そういえば、ちょっと似てるかな?」
「...そうでもないか。あいつの場合、音楽以外は欠陥品もいいとこだったし」
麻理 「私だって仕事以外は欠陥だらけよ」
春希 「でかい家に一人暮らしで散らかし放題」
麻理 「住んでるところは小さなマンションだけど、散らかし放題は同じかな。帰っても寝るだけだから洗濯物が溜まっちゃって...」
春希 「食事はコンビニかファーストフードばかり」
麻理 「最近はちょっと贅沢に超絶バーガー頼むこともあるけど、あれ、出てくるのに時間かかるのが難点ね」
春希 「...やっぱ似てるじゃないですか」
麻理 「かもしれないわね?」
佐和子「それに、顔とか性格とか立場とか年齢とか、そんなわかりきった理屈じゃないんだって男と女なんて。...そういう経験、ない?」
それでも、最後のその一言だけは、俺の反論しようとする気力を、根こそぎ折ってしまうのに十分な説得力があった。
だって...
俺の周りには、昔から趣味の悪いひとたちがいた。
『ただ、もう頑張りたくないだけ。楽に、なりたいだけなの』
楽に、なりたいだけ、か。
誰なんだろうな。
今まで雪菜に楽をさせなかったのは。
ずっと、苦しめ続けていた重罪人は。
これが、普通の記事ならよかった。
芸能界のゴシップでも、
恐怖の大予言特集でも、
下手をすれば御宿の風俗店情報でさえも。
きっと武也は指を指して笑い、
依緒は散々笑った後、ぽんと肩を叩くだろう。
そして雪菜は…
そんな低俗な雑誌でも、自分のお金でもう一冊買い、
ぎゅっと胸に抱きかかえてくれる…かもしれない。
本当に、格好いいひとだ。
俺が女性にこんな感情を抱くなんて、
麻理さんで二人目だ。
一人目の、クールで鋭い格好良さとも違う。
なんていうか、熱血というか、力技というか、
そういう無駄な熱さを伴う、一昔前の格好良さというか。
…なんて言うと、
ちっとも女性を誉めているような気にならないのは、
俺の気のせいだろうか?
俺は今、間違いなく無理して明るく振舞ってる。
けれど、麻理さんと二人きりだと、
ほんの少しだけ、その無理をする度合いが減ってくれる。
ほんの少しだけ、本当に明るくなれる。
99%の演技の中に、
1%の素の自分を織り交ぜることができるから。
もうやめよう。
雪菜を裏切ったまま、
"冬馬"という姓を引きずるのは。
春希 「また、俺を放り出すんですか?俺を、見捨てるんですか?」
「俺が、こんなに苦しかったの…こんなに辛かったの…麻理さんのせいでもあるのに…」
本当に、不謹慎だけど…
相変わらず、拗ねると抜群に可愛いな、この人は。
似てる、よな、やっぱり…
ごめんなさい、麻理さん…
俺は今、自分を含めた世界全部に嘘をついてます。
自分があなたを求めた本当の理由は、
傷を癒して、なくすためじゃなかったんです。
とても痛いのに、傷を消してしまうのが怖いから、
ただ、痛みだけを誤魔化したかったんです。
俺が処方してもらったのは、
治療薬ではなく、ただの麻酔薬だったんです。
なのに、その麻酔が、こんなに心地良いなんて…
このままじゃ、依存症になってしまいます、俺。
もう、戻れなくなってしまいます…
雪菜 「変わってないでしょ?」
「だって、わたしが変わってないんだもん」
「三年前から、止まったままなんだもん」
雪菜 「三年前のあの日、ここに家族なんかいなかった。春希くんを待ってたのは、わたし一人だった」
「家族はみんな北海道に旅行に行っちゃってた。友達も、誰も呼んでなかった。…わたし一人で、あなたをずっと待ってた」
雪菜 「逃げてたって…春希くんの話を聞くのが怖くてずっと逃げてたって、わかってるくせに」
「今日なら、春希くんは『大事な話』ができない。きっと、その優しさで飲み込んでしまう。…そんな酷い計算があったんだよ」
「だからわたし、今日、春希くんに会うことにした。一年に一度しか通用しない手ってわかってたけど、今のわたしには、こうするしかなかったの」
「あはは…これからは年一回しか会えないかもね。次は来年の今日まで…織姫と彦星みたい」
「一年間、ずっと彦星から逃げ続ける織姫…ふふ、みっともないね。心の底からみじめだね…っ」
『春希くん…笑ってたもんね。彼女の話をしてるときも』
『わたしが笑えなくなってしまってからも、ずっと、嬉しそうだったもんね』
『でもそれは、わたしに笑いかけてたんじゃなかった。今ここにいない、彼女に話しかけてたんだよね』
『だからわかっちゃった…今の春希くんの側にいるべきなのは、この人なんだって』
『そんな素敵な人なら、春希くんを笑わせてくれる。幸せにしてくれるって、わかっちゃった…』
『春希くんを、元の春希くんに戻してくれる。三年前の、明るくて、正しくて、頼もしい春希くんに。…わたしには絶対にできないことを、してくれる』
『だったらわたしは、わたしは…もう、春希くんから、卒業するしかないって、わかっちゃった…』
『ねぇ、春希くん』
『わたしは、やっぱりあなたを照らす光になれなかった。あなたに当たるべき光を遮る存在でしかない』
『だから…離れていきます』
『さよなら、春希くん。ずいぶん遅くなっちゃったけど、わたし、あなたを…ふってあげる』
『だから、頑張って立ち直ってね。そして、素敵な恋をしてね…』
#1 - 2024-1-25 19:20
SKY_TSK